山のシューレの開催にあたり

自然は叡智を秘めています。
自然は宇宙についての無限の情報を孕み、生命を生み、ついには人間をこの地球に送りだしてきました。人は、自然の叡智を学びながら、自然を母として成長してきたのです。しかし、自らを育んできたその叡智を人間は忘れようとしています。
人間を包む生命、生命を包む自然、自然を包む地球、地球を包む宇宙・・・
そうした人間世界を根底で織りなす連鎖と関係の中に古くて新しい叡智を見いださねばなりません。
破滅的な方向へ突き進む科学技術や経済や環境を再考し、人間の技と振る舞いを正しい道へと連れ戻すヴィジョンが切望されています。
自然に潜在する膨大な知恵を救いだし、その知を通して、世界の有り方を変えてゆくことが求められているのです。

近現代の技術文明は、自然を制圧し、支配し、不可逆的な改変をもたらすものと考えられてきました。しかし技術(テクノロジー)という言葉の語源となった古代ギリシャ語の「テクネ」は、もともと自然のなかにかくされている自然自身の本質を露わにし、輝きださせる技という意味を持っていました。
技術を効率や生産性の追求、硬直化した社会制度から開放してみると、技術の内部から本来の知が目覚め、自然や生命に対して、繊細で複雑な振る舞いをすることを発見できるでしょう。自由で高度な人間の技術は自然を制圧したり、破壊したりするのではなく、自然と人間の間に創造的な関係をつくりだします。
技術は生命を管理したり抑圧したりするのではなく、生命の無限の知恵を引き出し、この世界に豊かな意味をもたらすものだったのです。
21世紀に必要なことは自然が語りかけるものに耳を傾け、人間と自然の間に新しい生きたインターフェイスをつくりだすことでしょう。私たちの世界にもう一度、失われた叡智を注ぎこみ、私たちの言葉や心に慎ましさを取り戻し、人間と自然の壊れかけた関係を修復してゆかなければなりません。森と庭、里山の再生は人間と自然の生きたインターフェイスの格好のモデルとなるでしょう。
那須の小さな森と庭からその新しい物語が始まります。

総合監修:伊藤俊治(東京芸術大学美術学部教授)